
なんば 賃貸の世界
まさにこの想像だにしなかったことが、政策当局が経済成長とプラスの物価上昇を維持するための十分な政策運営を怠ったカギとなる要因でもある」まさかデフレにはなるまい、景気はいずれ回復するに違いない、物価上昇率はゼロがいいに決まっているといった平時の思考が、効果的な政策を打つ時期を逸してしまったというわけだ。
FRBの分析者たちは、予測力を欠いた当時の観察者たちの中に、FRB所属のエコノミストや金融市場も含まれるとしており、N銀だけが「迂開だった」と非難しているわけではない。
しかし、言っていることは政策判断力の乏しさ、すなわち「N銀の失敗」である。
「注意すべきだったことは、金利と物価上昇率がゼロに近づくような場合には、政策当局者は単に将来の経済活動と価格の標準的な予測に基づいて反応するだけではなく、そうした標準的な予測に対して起きる特別の下振れリスク、すなわちデフレの可能性について、反応すべきなのだ」下振れリスクに備えるには、早めの予防的な緩和策が必要。
つまり、経済が実質金利(名目金利物価上昇率)に反応することを前提に政策を考えると、物価上昇率がプラスの間に、名目金利を前倒しで引き下げ、実質金利を思い切って下げていれば、下振れリスクの芽を早期に摘むことができたはずとみる。
物価上昇率がマイナスになると、その分、金利引き下げ効果は減殺される。
そして日本のようにゼロ金利で名目金利もそれ以上引き下げられなくなると、物価下落分だけ実質金利は逆に高まり、景気の足を引っ張る。
デフレの怖さだ。
日本のコールレート翌日物は、九一年三月の八・一%をピークに、九五年一月には一%まで下がった。
消費者物価上昇率は九五年に短期間のマイナスになった後、九七、九八年は若干プラスで推移し、九九年以降はマイナス状態。
ということは、実質金利引き下げ効果を大きくすることが可能な期間は、九一年から九五年までだったことになる。
実際、FRBリポートはFRBグローバルモデルを活用した試算(図4)を元に、「大胆にとるべきだった政策の選択肢」を示している。
「もし九一年から九五年初めまでのどの時点であっても、N銀が(名目)金利をさらに二%引き下げていたら、デフレは避けられただ公定歩合は一九九三年九月に一・七五%で、コールレートも同年末は一二・五%前後。
N銀はこの後、小刻みに公定歩合を引き下げ、九五年九月に○・五%とした後は、新N銀法施行後の九八年九月まで一切の動きを止めてしまう。
FRBの診断通りだと、公定歩合、コールレートが二%前後に迫まった時に、一気にゼロ金利策に転じていれば、量的緩和策にまで踏み出す必要もなかったことになる。
そう見ると、新N銀法下での政策委員たちは不幸にも、デフレ回避が可能なギリギリのタイミングを逸した後に選ばれ、徒労にも近い攻防と際限のない挑戦に取り組んだことにもなる。
時に、株価の変動にも非常に注意した。
株価の変動を意識したのは、九五年の円高のころ。
イールドスプレッドがほとんどゼロに近づいて、マイナスにもなりかねなかった。
そうなると金利をいくら下げても資産価格を引き上げる効果はゼロとなり、資産価格を通じる景気浮揚効果もゼロになる」九五年までは適正な金融政策運営だったとの説明だ。
それに続いてFの指摘するイールドスプレッドとは、長期金利から株式益回り(株価で一株利益を割ったもので、株価収益率(PER)の逆数)を差し引いたものをいう。
株価は経済の成長とともに上昇するから、株式投資の収益率は株式益回りプラス経済成長率。
この収益率が長期金利よりも大きい時が長期の株式投資をすべき時期となる。
ここから、イールドスプレッドは潜在経済成長率を指し、これがマイナスだと、金融緩和をしても、株式投資のインセンティブは全く生じないことになる。
図5で見るように、九五年年初のイールドスプレッドは三%台から急速に低下、同年五月に一%を切った。
その後、同年四月の○・七五%利下げ、同九月の○・五%利下げの効果で、九六年一月には三%台に戻している。
確かに政策効果は出ている。
だが、そこで公定歩合は○・五%まで下がり、追加の緩和効果はほとんど打てない状態。
その後はイールドスプレッドは再び低下、九七年夏場には一時マイナス、九八年五月以降はさらにマイナス幅が拡大した。
だが、Fのこの説明は、FRBが導き出す思い切った緩和策とは異なる。
実体経済を見極めて、それに身を合わせ、その時点でもっとも適正と思われる手立てをとってきたと言っているに過ぎない。
イールドスプレッドに視点を置いた緩和策も、結果はデフレ深化の前には、中途で金利の銃弾も尽きてしまった。
思い切った政策とは、単に常識を越える規模で政策を打ち出すというだけではない。
そうした政策が効く背景には、問題解決に取り組む政策当局に対する国民、市場の信頼がある。
それも盲目的な信頼ではなく、政策実績に裏打ちされた信頼だ。
「N銀は間違いなく問題を把握している。
その解決のために的確な手段をとろうとしている」という信頼だ。
この政策当局への信頼が、デフレ払拭の期待に転じる。
むろん、FRBの日本分析が正しいかどうかは議論のあるところでもあろう。
むしろ政策を自ら実践してきたN銀が、理論と自分たちの実践を分析・検証して、そこからの教訓を他の国のCにも提示できれば説得力がある。
ただ、FRBは単にN銀批判のためにリポートを作成したわけではない。
二○○一年年初の緊急利下げ以来、一○○三年六月にFFレートを一・○%に下げるまで、実に十三回連続の利下げを続けたのも、「N銀の教訓」に学んだ実質金利引き下げ政策だったといえる。
さらにFRBは一○○三年八月のFOMCで、現行の金融緩和策を「かなりの期間」維持する方針を打ち出した。
N銀が実践した時間軸政策を採用したのだ。
確かに、日本政府もデフレ防止に効果のあるような適切な策を打ってこなかった。
それどころか、一九九七年四月に一般消費税引き上げなどの財政引き締め策に転じ、自律的な景気回復の流れを一気に政策面から潰した。
悔やんでも悔やみきれない「大蔵省の失敗」だった。
小測政権になってからの大規模な総合経済対策が思うような効果を上げられなかったのは、その前の「思い切った財政引き締め」の重荷が大き過ぎたともいえる。
米政府とFRBが、日本の教訓から一連の金融緩和策と大規模減税策を組み合わせた財政・金融の政策協力を生み出したとすれば、日本も財政・金融政策による新たな連携を模索する道が浮上する。
量的緩和策に転換後、次章でみる次期総裁レースに絡むなどの形で、政府・N銀の政策協定(アコード)論議に一時脚光が集まったのも、こうした視点からだった。
アコードとは、一九五一年に米国で財務省とFRBが結んだ協定を指す。
FRBは戦後しばらく、戦FRBリポートで忘れてはならないのは、日本の財政政策についても同様に思い切った景気刺激支出をすれば、デフレ抑制効果を発揮できたと指摘している点だ。
ブッシュ政権は二○○三年五月に成立した減税パッケージ(七月実施)で、十一年間で総額約三千五百億ドルの財政面からの景気刺激策を始動させた。
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